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宇都宮地方裁判所 昭和27年(行)15号 判決

原告 新井ヒサ

被告 栃木県知事

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は請求趣旨として被告は原告に対し被告が昭和二十四年三月二日別紙目録記載の山林につき為した買収処分はこれを取消す訴訟費用は被告の負担とする判決を求むる旨申立て、其請求原因として別紙目録記載の山林は原告の所有であるが被告は昭和二十四年三月二日買収処分を為した。しかるに被告はその買収令書を受取つてないので右買収は違法である。仮りにしからずとするも右買収は左の理由により違法として取消さるべきである。(一)開墾適地として買収し得る山林は開拓適地選定基準第八の(一)の(イ)により傾斜十五度以下の山林でなければならないしかるに右山林の傾斜は十五度を超す開墾不適地である。(二)開拓適地選定基準第八の(一)の(ロ)によれば土層の厚さ換言すれば底岩又は盤層までの深さ四十糎未満は開墾不適地である。しかるに右山林の土層は厚さ十三糎より十八糎の著しい開墾不適地である。(三)買収処分は対価の支払によつてその効力を生ずるものであつて、対価の支払なき買収処分は違法である。被告より原告に交付された買収令書の買収期日は昭和二十四年三月二日で対価支払期日も同日であるに拘らず、約五ケ年後の今日までその支払がない。買収期日に対価の支払なきことは到底許されない。(四)未墾地買収は強制買収ではないから前記山林の買収は原告の買収に対する応諾がなければ買収の効力は生ずることはない。買収令書の裏面には買収申入の記載があり、買収対価受領の委任状欄があるので、これに原告が捺印することにより、買収対価の支払もなし得るし買収の効果も生ずるのである。勿論原告は左様な応諾はしてない。従つて前記買収処分は違法である。原告は前記買収処分に対しては異議を為し且つ訴願を為したのであるが訴願に対しては昭和二十七年七月三十一日栃木県知事より却下の裁決があつた。よつて本訴請求に及ぶと陳述した。(立証省略)

被告指定代表者は主文同旨の判決を求め、答弁として原告請求原因中買収処分の点異議訴願の点訴願却下の点は認めるがその他の点は否認する。原告は被告の買収処分に対し種々批難攻撃するが、傾聴に価するものはなく右買収処分については栃木県開拓委員会に於て昭和二十三年四月十六日付を以て開墾適地の判定が為されているのであると述べた。(立証省略)

三、理  由

原告所有別紙目録記載の山林につき昭和二十四年三月二日附を以て未墾地買収の処分の為されたことは当事者間に争がないのである。

そこで原告が前記買収処分に対し訴願を為し昭和二十七年七月三十一日被告より訴願却下の裁決が為されたことは当事者間に争がないのであり、換言すれば訴願は却下されたのであるから訴願庁の実質的判断を受けてないことゝなるのである。従つて、原告としては本件行政訴訟につき所定の訴願を経たことにはならないものと解されるのである。従つて原告は本件提訴については訴願前置の規定に違背はしているがさて本訴は法定期間内に提訴されたかどうかである。成立に争ない乙第五号証の一、二(願書)証人新井章(第一回)の証言を綜合すれば、前記買収処分に関する買収令書は昭和二十四年五月頃原告の兄である訴外新井章に菱村役場にて交付されたが、同人は自家開墾が許されるものと信じてこれを受領したところ、そのことは実現が疑われるに至つたので該令書はその頃県知事宛に返戻されたのであつて原告には毫も知らしめなかつたことが認定できるのである。ところが、成立に争ない乙第三号証(裁決書)同第四号証(配達証明書)を綜合すれば前記買収令書は改めて昭和二十七年十一月十二日原告に対し郵便を以て送付されたことが明かであるのである。左すれば前記買収処分は昭和二十七年十一月十二日に至り漸やくその効力を生じたものと謂うことができる。原告が本訴を提起したのは昭和二十七年八月二十九日であることは記録上明かであるので、原告の提訴は法定期間内に為されたものと謂わざるを得ない。しかし原告の本訴提起は訴願前置の規定に違背していることゝなるので、原告に正当な事由のない限り原告の提訴は許されないこととなる。この点を検討すると前段認定の通り原告はその訴願に於て法定期間経過を理由に訴願は却下されたものと解され、訴願庁の実質的判断を受くるに至らなかつたのでありしかも法定期間経過していると為すことが不当であることは、前記認定の通り買収処分は訴願当時未だその効力を発生していなかつたことから当然である。この場合原告としては再び訴願庁に訴願するに由なき次第である。さればとて原告が受けた買収処分に対し実質上の理由を以てする不服の方法を拒否することは行政事件訴訟特例法第二条の法意に反するものと解されるのである。換言すれば斯かる場合こそ原告をして所謂訴願を経ざるも直に提訴するにつき正当の理由ある場合と謂わねばならない。左様の次第で原告の本訴提起は有効であると為さねばならない。

次に原告は前記買収処分に対し種々違法理由を主張するので逐次これを審按することゝする。

第一山林の傾斜度

原告は開墾地として買収し得る山林は農林省の開拓適地選定基準第八の(一)の(イ)(現在は昭和二十八年二月二十八日通達開拓適地選定基準第七の一の(一))により傾斜十五度以下でなければならない。しかるに前記山林は傾斜十五度を超す開墾不適地であると主張するが、鑑定人大戸健一同菊地正仁の鑑定の結果検証(第一回)の結果を綜合すれば右山林は三〇三五番の代表地点に於て七度三〇三四番代表地点に於て六度三〇三一番に於て代表地点四点は十三度七度六度三度とされまた全体を通して五度乃至十度の地積が多く五度以下がこれに次ぎ十乃至十三度の傾斜地積が最も少いとされていることが認められる。成立に争ない甲第二号証(図面)を以てしては右認定を覆すことはできないように考えられる、即ち右図面は多く前記山林の境界部分の傾斜度が十五度以上なることを示すものであり、三〇三一番山林の南の部分に於て傾斜度十五度以上を示すものがあるがその数字にして誤りないとすれば他の傾斜度と比較して一部変則的な傾斜状況を呈しているものと考えられるに過ぎない。前記鑑定と対比すればその数字は信じられないことゝなる。この点に関する証人新井章(第一回)の証言は措信し得ない。従つて原告の右主張は採用し難い。

第二山林の土層深度

原告は前記適地選定基準第八の(一)の(ロ)(現在は前掲通達第七の一の(二))によれば土層の厚さは四十糎未満は開墾不適地であるのに前記山林は土層の厚さ十三糎乃至十八糎の著しい開墾不適地であると主張するが証人大戸健一の証言鑑定人菊地正仁同大戸健一の鑑定結果検証の結果(第一、二回)を綜合すれば前記山林の土層の深度即ち地上から底岩又は盤層までの深さは検土杖により測定したところ四十糎未満ではないとされていることが認定できる。尤も甲第三号証(東京大学農学部作成鑑定書)によれば右山林中或部分に於て土層の深さ約十五糎であることが窺われるがこれによつて必ずしも右認定を左右するに価しない。それは右鑑定書にもある通り土層の深度の測定は現地について詳細調査した結果でなければ正確は期し難いからである。また証人大戸健一の証言にも前記山林の一箇所それは道路との境界地点ではあるが土層二十一糎の深さの地点があることが窺われるが、これもその地点が道路との境界であることから右認定には影響がない。以上認定と矛盾背反する証人新井章の証言(第二回)は採用し難い。従つて原告のこの点に関する主張も採用し得ない。

第三買収対価の未払の点

原告は前記山林の買収処分は対価の支払が為されていないのであり、対価の支払なき買収処分は違法であると主張するが、現行農地法は兎も角として旧自作農創設特別措置法に於ては買収対価の支払が買収の時期に為されなかつたとしても買収の効力を無効とする旨の規定はない、しかも右買収対価は特殊の事情の為め支払期日後である昭和二十八年一月三十日までに不足分共宇都宮地方法務局に対し供託済であることは成立に争ない乙第八号証(供託書)同第十一号証(供託書)等により明かである。従つて原告の右主張も採用し難い。

第四買収処分の応諾の点

原告は未墾地買収は強制買収ではないから前記山林買収には原告の応諾が必要であるに拘らず、原告は応諾を与えてないと主張するが、現行農地法に於ては山林買収に所有者の意見が採用されることがある。しかし旧自作農創設特別措置法に於ては未墾地買収が強制買収でないとする原告の主張は採用の価値なきこと明かであるので説明を省略する。

最後に原告は前記山林は開墾不適地であると主張するが、成立に争ない乙第一号証(開墾適地調査報告書)鑑定人菊地正仁同大戸健一の鑑定の結果によれば前記山林が開墾に適することは確定的事実である。尤も原告が極力開墾不適を主張するのには必ずしも故なきにあらず、鑑定人菊地正仁の鑑定によれば前記山林は増反開墾の条件を欠けば開墾は不可能であることを明かにしている。その他右山林の傾斜度も四級傾斜に近いし土層の深度も三級土層の限界を僅かに保つているに過ぎない状況にあることは前顕資料により言い得られる。であるから前記山林の買収は法律的見地からは是認されても、未墾地の開墾行政の立場からは批難を免れ得ないことになるやも知れぬ。

以上説明の通りであるので原告の本訴請求は失当として棄却は免れないことゝなる。訴訟費用は敗訴原告の負担とする。よつて主文の通り判決する次第である。

(裁判官 岡村顕二)

(目録省略)

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